このような表題の記事が朝日新聞に掲載された(6月20日)。去年12月の歌舞伎座で「阿古屋」を梅枝、児太郎、とともにトリプルキャストで演じ、この大役を二人の後輩に教えた。なんせこの「阿古屋」、劇中で琴・三味線・胡弓を弾くという難役中の難役なのだ。
この役は長く、六代目歌右衛門が独占していた。かつて「歌舞伎座の女帝」と呼ばれた歌右衛門は、自分が得意とした演目を他の役者が演じることを許さなかったのだ。この「阿古屋」、それに「籠釣瓶花街酔醒」、などなど。それに玉三郎はこの歌右衛門にさんざんいじめられたのだ。何故か、玉三郎が自分より若く綺麗、その上なかなかうまい、だから自分の地位をおびやかす恐れがあるから。歌右衛門がいじめたのは、先代雀右衛門に嵐徳三郎。雀右衛門がその実力にふさわしい地位を手に入れるのは歌右衛門が動けなくなってから。徳三郎は、関西が主な活躍の舞台だったが、結局歌舞伎座の舞台にはたてなかった。
それをみて玉三郎はそれではいけないと思ったのだろう。自分が動けるうちに、後継者を作る事にしたのだ。自分の当たり役を若手にやらせている。それに、映像を残すのにも熱心だ。「シネマ歌舞伎」にも熱心に取り組んでいるし、NHKで自分の当たり役をいろいろ解説している。映像というはわかりやすい反面危険な事もある。たとえば、すべてを映像にする事はできない、だから役者は新しい役に取りかかるとき経験者に聞きに行く。映像に映ってないところでなにをしているのか知っているのは実際に演じた人だけである。それに、劇場の雰囲気までも映像にすることはできない。しかし、玉三郎はそれを十分承知でやっているのだろう。
今年の三月、南座で玉三郎の「阿古屋」を見てきた。とても素晴らしい、出来だった。声をかけるのはもとより、拍手さえはばかられるような雰囲気だった。それでも声をかけているのは、おそらくはプロの声掛け屋さんだけ。玉三郎の演技には声を掛ける隙がない。。一般の観客が声を掛けたのは、最後 柝が入った時だけ。六代目は声をかけさせるような芝居をするな、と言ったと言う。豊竹山城少掾が語り終わった後、しーんとして、誰も拍手しない、席を立つ人もいない、咳さえ聞こえない、それくらいすごかった、と言う話を思い出した。あまりに凄いものは、沈黙をもたらすのだ。
この「阿古屋」の後、「太刀盗人」、それから玉三郎の舞踊があった。この舞踊の時、声を掛けないでください、と言うアナウンスが流れた。言われるまでもなく、声を掛ける間が、もっと言うなら隙がなかった。なにもそんなこと言わなくても、と思ったが、フライングで拍手する人がいるとか、劇場で騒いでつまみ出されたとか言う話も聞いたことがあるし、ただ単に自分が目立ちたいから声を掛ける人もいるのだろう。そういえば、だいぶ前の話だが、吉右衛門が熊谷の幕外の引っ込みで最高の演技を見せているとき騒いでぶちこわしたおばさんがいた。だから、声を掛けないでください、なんてアナウンスが必要になってくるのだろう。なんとも嘆かわしい。
これが気に入ったら下記を「ぽちっとな」とクリックしてください