GWまっただ中の5月4日、梅田芸術劇場に宝塚歌劇の巡業を見に行った。お目当ては柴田侑宏の作品を見ること。演出は大野拓史。星組の公演である。この公演から次期トップの礼真琴が主役を務める。この日はその初日に当たる。
この「アルジェの男」はこれで4度目の上演となる。初演は1974年鳳蘭主演、再演は1983年には峰さを理主演、2011年には霧矢大夢主演で上演されている。結構古い作品だが、再演を繰り返すくらだから良い作品だろうと思ったら、実際にそうだった。
プログラムにあったストーリーを読むと、フランス領時代のアルジェリアの話、身よりもなく貧しい青年ジュリアンがアルジェリアの総督に見いだされ自分の野心をたぎらせ出世していくが、と言う話。どこかで聞いたような話だ。これ「赤と黒」ではないか。実際に見てみるとそうだった。これは、柴田侑宏が宝塚歌劇の為に書いた「赤と黒」なのだ。振り付けにこの作品に主演した峰さを理の名前があった。
それにしてもよく出来た、と言うより、しっかりした密度の高い作品である。これに比べると、今年の新作、「CASANOVA」「無限無双」がスカスカに見えてくる。「霧深きエルベのほとり」もすばらしい作品だった。新作を否定するものではないが、今の作家はもっと昔の作品を勉強してほしいと思う。また、宝塚も今年で105年目、そろそろ「古典」を継承する時期に来ているのではないか。
主演のジュリアン役の礼真琴が良い。なにより、歌が上手い。なによりも「役者の歌」になっているのがいい。ここで歌われる歌は台詞に節がついたようなものなのだ。この人の歌を聞いているとそれがよくわかる。ジュリアンの恋人サビーヌを演る音波みのりはその点がもの足りない。主人公ジュリアンを巡る女性はあと二人。総督の娘エリザベート・桜庭舞と社交界の花形シャルドンヌ婦人の姪アナ・ベルの小桜ほのか。エリザベートは物足りない。総督の娘故の高慢さ、プライドの高さがもう一つ出ていない。それでもジュリアンを好きになると言う事が弱い。アナ・ベルがなかなか良い。ドビュッシーの「月の光」が効果的に遣われている。ジュリアンの「道具」に遣われても、それがわかっても、嫌いになれない、と言うところがよく出ている。彼女の付き人アンドレ役の極美慎が好演。終わりの方で、背中しか見せないが、アナ・ベルを愛しているのがよくわかる。
一番のもうけ役は、ジュリアンのアルジェでの仲間ジャックを演じる愛月ひかる。この人は専科に移動して初めての公演だとか。ワルぶりがなかなか良い。この敵役がしっかりしているから、芝居がおもしろくなる。。ジュリアンと同じくらいの重みがある。それに色気があるのだ。ジュリアンがパリに行ってしまったからサビーヌとできてしまう、と言う展開に納得がいく。
アルジェリアの総督を演じる朝水りょうはもう一つ大きさが足りない。こういう役にこそ専科から来て欲しいものだ。しかし、総督夫人の白妙ばつはなかなかいい。この人の天衣無縫さがよく出ている。また、パリ社交界の花形シャルドンヌ夫人を演じる万里柚美がなかなか懐の大きいところを見せて好演。
最後の方になって、これどうやって結末をつけるのか、と思ったら、意表をつくような終わり方になっている。しかし、この終わり方で納得がいく。なんせ「赤と黒」なのだから。
続くショーは「エストレージャー」、今年のお正月公演で見たがなんとも退屈な作品だった。しかし、この巡業版の方が面白い。これこれおほどおもしろかったのか、と思うほど。特に愛月ひかるの登場が多く、なかなか見応えがあった。客席降りもあった。しかし、大劇場のように二階ま・三階まで来られないのが残念。客席が明るくなった、と思ったら礼が客席から出てくるところもちょっと意表を突かれた感じ。巡業用に手をいれたのだろうが、それが成功していた。
カーテンコールで、万里組長から、星のきらめきに月の光が加わりました、と愛月を紹介していた。礼の挨拶は、緊張しているのがまるわかりだが、好感がもてた。カーテンコールは4回、最後は総立ちとなり、巡業の開始、新しいトップの紹介を会場の全員が祝うような感じとなった。
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