観劇日1月26日(土)15:00開演 2階B席
この「霧深きエルベのほとり」と言う作品の名前だけは聞いた事があった。菊田一夫作で初演は1963年、なんとも古い作品だ。ただ、演出は上田久美子。だから期待できる、と思って見に行ったら期待通り結構おもしろかった。
ただ、古めかしい作品であることは確かである。テーマは「身分違いの恋」。金持ちの貴族の令嬢マルギット(綺咲愛里)が家出してきて、ビール祭りの最中のハンブルクでたまたま寄港中の船員カール(紅ゆずる)と出会い、恋に落ちる。 二人は結婚しようとするが、結局は別れる。と、まあこのような話、今まで何度見てきただろうか、と思うような内容なのだが、さすがに菊田一夫、見せ方が上手い。
特に良いのは湖のレストランのシーン。カールとマルギットが席に着こうとするとウエイターが、ここは特別席です一般席は向こうです、と言うとカールは一般席に行こうとする。マルギットは、ここで食事しようと言い席に着く。すると、カールの昔の恋人と再会する。彼女は金持ちの夫人になっている。彼女の夫が、水夫とは同席できない、と言って出て行く。おまえは俺に恥をかかせたいのか、とカールが怒る。これだけで、階級の差、カールの過去がわかるようになっている。
指揮は佐々田愛一郎、彼の棒で聞けるのは嬉しいが、彼の「ファントム」の素晴らしい指揮を東京公演でも聞いてもらいたいとも思う。プロローグは、銀橋の中央で主演の紅ゆずるが「鴎の歌」を歌うところから始まる。それが終わると本舞台に大階段が出てきてビール祭りの歌と踊りとなる。ディアンドル(Dirndl)風のドレスの女性とバイエルン風の上着の男役が、「ドイツのビール祭り」と言う感じを出している。それに芝居で大階段を使うなんてあまりない。
今見るとヒロイン・マルギットはわがままで、自分勝手な女である。家出の理由もなにか曖昧、カールを愛しているように見えて、実は下に見ているところがある。世間知らずのお嬢さん、なのだ。そんな人がビール祭りに紛れてうろうろしていると、きっと悪い男に騙される、とカールが思ったからこそ彼女に近づき、結局は愛するようになる。そして、カールはマルギットの父に手切れ金を貰って別れる。それは、マルギットの幸せを願っての事、金を受け取らないと親父は納得しないし娘は諦めないからだ。と言う展開なのだが、なんとも古くさい話、これまで同じような筋の芝居を何度見てきただろうかと思う。しかし、見せ方が実にうまい。だから、であろうか最後の方では、客席から女性のすすり泣きの声まで聞こえる。
このカールと言う男は、一見いい加減、ちゃらんぽらん、ワル、でも本当はいい男で、人の幸せを第一に願っている。こういう役は紅にぴったりなのだ。だから、こんな古風な芝居でも見ていられる。綺咲もこの「世間知らずのお嬢さん」と言う役にぴったりだ。上田久美子があえてこの作品を選んだのは紅・綺咲にぴったりだからだったと言う事がよくわかる。
続くレビューは「エストレージャス」、星たちという意味らしい。しかし、退屈で別にどうという事はない、途中でうとうとした事もたびたび。指揮は橋本和則、若い人だがレビューと言う事もあり、可もなく不可もなしと言う感じだった。ただ、プロローグで客席降りがあり二階にまで来てくれたのが嬉しかった。これは予想もしていなかった嬉しい出来事だ。隣の人は手拍子をしていたが、僕はそんな余裕もななくただただ見ている事しかできなかった。また、「ポップスター」、Musikal"Tanz der Vampire" 第二幕のフィナーレが使われていたのが嬉しかったくらい。それに、録音の部分が多く、指揮やオーケストラを存分に聞けなかったのが惜しい。
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追記:youtube で再びこの作品を見た。改めて菊田一夫の凄さ、この作品を現代に蘇らせた上田久美子の力量を思い知った。それにしても、ドイツを舞台にしているが、話の中身は新派ではないか。あまりにも日本的である。好きな男の将来を思って芸者・遊女が愛想尽かしをする、と言うのはよくある話だ。今回は、愛想尽かしをするのが男、と言うのがちょっとしたひっくり返しになっている。それをもう一回ひっくり返し、男役、つまり女性にやらせたのが面白いところ。つまりこの芝居、男役と娘役、つまり宝塚歌劇でしか、成り立たないのではないか。これを生身の男性が演じると、あまりにもクサい、わざとらしくなるのではないか。なるほど、何度も再演されるはずだ、と改めてて思った。 18.Juni 2021