観劇日11月3日(金・祝)15:00開演 B席2階14列12番
「ベルリン、我が愛( Berlin, meine Liebe )」は原田諒の新作。彼の大劇場のデビュー作「華やかなりし日々」と同じく、舞台は1920年代、ただ、場所はニューヨークからベルリンに変わっている。そう、ベルリンが一番輝いていた時代、「黄金の20年代」の話である。主役二人テオ・ヴェーグマンとジル・クラインは架空の人物だが、エーリッヒ・ケストナー、レニ・リーフェンシュタール、ゲッベルスなど実在の人物も数多く出てきて面白い作品に仕上がっている。
舞台は「メトロポリス」のプレミア上映から始まる。「メトロポリス」と言えば、今ではフリッツ・ラング監督の名作として映画史に刻み込まれているが、この舞台では公開当時はかなりの不評で、観客は、Nein,Nein と映画に否をたたきつけ、最後まで見ずに席を立つ客が続出する。その為、制作会社UFA(Universum Film AG)は多額の赤字を抱える事になる。
赤字の原因は、当時表現主義の全盛時代であまりに芸術性を追求しすぎて、観客を獲得出来ず、莫大な制作費を回収できなくなった事にある。ちなみに、表現主義は、Expressionismus、印象主義は Impressionismus。UFA経営陣は、会社をナチスと関係のあるフーゲンベルクに売却しようとする。それを阻止するため、プロデューサーのカウフマンは、助監督だったテオ・ヴェーグマン(紅ゆずる)の提案でトーキーで新作映画を低予算で撮ろうとする。と言う話。
とにかく、よく調べている。一番関心したのは、レニ・リーフェンシュタールの事。ここでは、元レビューの踊り子で映画女優に転身したが、主演であるにもかかわず、脇役の女優ジル・クライン(綺咲愛里)の方が注目を集めてしまう、と言う設定になっている。史実では、ナチに協力した映画監督として有名で、戦後は写真家としても知られている人だ。調べてみると、彼女は最初実際にレビューの踊り子で、後映画女優になり、それから監督になっている。ナチに協力したのは史実と一致している。
また、ケストナーは、ここでは、絵本作家テオの友人、テオが撮る映画の脚本を書くことになる。その内容と言うのが、まるでミュージカル「キャバレー」そっくり。史実では、ケストナーは、キャバレー(カバレット)の作家として出発し、映画の脚本も書いている。最後に、見送る役だが、史実でもケストナーは、亡命を勧められる事は多かったが、最後までドイツに留まっている。
又、ジョセフィン・ベイカーが出てくるのも面白い。彼女は黒人だが、レビューのスターだった。そのレビューのシーンも出てくるが、衣装がエルテの画集そっくりなのが又良いではないか。ただ、挿入歌で、Willkommen と言うのはウィルコメンと発音しているが、一寸残念だった。ま、仕方ないか。
ただ、物語は予定調和に終始する。そこがこの芝居の弱い所だが、その分、前述した細かいところでうならせてくれる。それ以外でも、クーダム、レーバーケーゼ、フォリーベルジェール、なんて言葉が出てくるだけで嬉しくなってくるではないか。また、盛り上げ方がうまいので、スリル満点である。
また、カフェ・フリードリヒホーフのおかみゲルダ(万里柚美)とサイレント映画のスターヴィクトール(天寿光希)のやりとりが意味深で粋だった。
映画の話だけに、映像も出てくる。舞台作品に映像が出てくるのはあまり感心しないが、これは映画の話、実に効果的に映像が使われている。最後のシーンはベルリン中央駅、この時代はまだHBFがあったのかな。
続く、レビューは、90周年記念で"Bouquet de TAKARAZUKA" と称しているが、別にどうっていう事もない、いつものレビュー。「モン・パリ」90周年と言う事で、モン・パリが歌われる、くらいかな。
とにかく、原田諒の作品がとても見応えがあった。
追記:「メトロポリス」は1926年に完成したオリジナル全長版は大長編だが、アメリカのパラマウントにより徹底的にカット・編集されかなり短くなった。又、第二次世界大戦の混乱で、元のフィルムも散逸し、オリジナルを見るのは不可能とされた。
1984年、ジョルジオ・モロダーのプロデュースにより、再編集版が公開された。これは、当時集められるだけのフィルムを集め、再編集し、一部に色を付け、音楽を入れたものだ。この版を僕は当時みている。その当時みてもかなり前衛的なものだった事を覚えている。
この芝居では、観客から Nein を突きつけられる事になっているが、それはあまりにも前衛的過ぎたからだろうか。
追記2:浜村淳がラジオで、観劇の時客席にすわっていると自分の前を通って奥の席にいく人が多いが、ほとんどの人は何も言わない、と言っていた。僕は、そんな経験が無かったので信じられなかったのだが、今回の宝塚歌劇観劇で、その経験をした。何も言わずに僕の前を通ろうとするのだ。ただただ唖然とするばかりだった。なんとか言えば良いのに。まぁ、生まれ育ちがよくわかっていい、と言えばそれまでだが。
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