大劇場で「新・源氏物語」をみてから柴田侑宏のファンになった。彼の作品はおもに巡業で上演されるからおのずと巡業先の梅田芸術劇場で見る事になる。また、この巡業から雪組のトップが望海風斗と真彩希帆になった。
観劇日8月26日(土)16:30開演 B席 3階3列55番 上手よりで上手が見切れる ほぼ満席である。
この「琥珀色の雨にぬれて」と言う作品は、「仮面のロマネスク」にまけないほどの傑作である。なんとも粋で、艶っぽく、大人の為の作品になっている。これに比べると、大劇場の夏休み公演「All for One」なんて小学生向けでだ。それほど、完成度が高い。だからだろうか、初演は1984年、その後、1987年、2002年、2003年、2012年と再演され今回が6回目の上演である。
幕が開くと群舞、それもコンチネンタル・タンゴ「ジェラシー」による群舞である。これだけで、なにか艶っぽい感じがする。次のシーンで主役クロード(望海風斗)の回想が始まる。つまり、この芝居、全体が一種の回想となっている。この中で「戦争」という言葉があったので、第二次世界大戦の事かと思ったら、第一次世界大戦の事だと、幕間に買ったプログラムを見てわかった(^0^;)。どうりで、装置も衣装もアールデコ調だったのだ。
タンゴ、と言うのがいいではないか。これだけで艶っぽい感じがする。なんせタンゴは前戯のようなものだから。
舞台は1920年代のパリ。どうりでコンチネンタル・タンゴばかり出てくるのだ。アルゼンチン・タンゴで出てくるのは、「タ・クンパルシータ」くらいなもの。1922年、クロードは、フォンテンブローの森で「運命の女」と出逢う。彼女の名はシャロン(真彩希帆)。彼女は、絵や写真のモデルをしたり、客の前でデザイナーの新作ドレスを着て「生きたマネキン」になっている、こういうのを「マヌカン」と言うらしい。見ているとこれ、高級娼婦じゃないか。まるで、「椿姫」のヴィオレッタか「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリー、つまり彼女は「妖精」。マノン・レスコーのような「金のかかる女」。つまり、この話は、「運命の女に翻弄される男の話」、「マノン・レスコー」や「カルメン」の系譜につながる。
シャロンの事を教えてくれるのが、ルイと言う男(彩風翔)。彼もシャロンの崇拝者の一人で、ジゴロ。クロードはルイとシャロンをどちらが先に落とすか競争する事になる。
それに、高級クラブにジゴロが居て、マダムが「ジゴロ道」を仕組む、と言うのもまた粋で面白い。ジゴロに必要なのはまず美貌、でもそれ以上に手練手管が必要なのだろう。ジゴロが売るのは「愛」、相手に愛されても自分が愛してはならない。そのクラブでもタンゴが演奏される。曲は「奥様、お手をどうぞ (ich kuesse Ihre Hnand, Madam 直訳すると「あなたの手にキスをします、奥様」)。ただ、クラブのマダム、クラブの歌手とも歌が下手。
シャロンがパトロンと、「青列車」でニースに向かう。それを追うクロード。この「青列車」と言うのはオリエント急行のような豪華列車。この事が、クロードの婚約者フランソワーズに知れてしまう。このフランソワーズ役の星南のぞみは歌が下手。どうにも垢抜けない感じで、これではクロードがシャロンに惹かれるのも無理はない、と変な説得力があった。青列車の中のシーン、ニースに着いてからそこの高級ホテルでのシーンが又粋で、さまざまな恋愛遊戯、恋のさやあてが描かれる。中には結婚してすぐコキュ(寝取られ夫の事、ご存じとは思うが念のため)にされる男など。
これほど粋で艶っぽい話が続くが、これは「清く正しく美しい」宝塚歌劇。運命の女は所詮夢物語、男は日常に帰っていく。こういう所が世の「健全な」御婦人方に支持される所以だろう。
続くショーは、"D"ramatic"S" と称して、これ今年上演されたが早くも再演になった。大劇場公演と比べると少人数ではあるが、あまりその事を感じさせないような演出だった。録音指揮は大劇場の時と同じく大八木靖。「琥珀色の雨にぬれて」は録音指揮と言う記述がなかった。大昔の録音を使っているのか、それともここには書けないような大物、もしくは指揮者無しで録音したのだろうか。それとも大昔の録音なんで、指揮者の名前がわからない、とか。
特に気になったのは、梨花ますみ組長。この人、黒木瞳と同期、ということはもう50代なかばだと思うが、20代の生徒に混じってなんの遜色も違和感もなかった。だから、現役で通用するのだろうけど。梅芸で見る時の良い所は、階段が小さい、だから階段に昇る所から見られる事。大劇場のB席では階段のてっぺんが見切れるから。
最期の挨拶は梨花ますみ組長だった。地方巡業恒例の御当地出身者の紹介があった。その紹介の最期に、大阪府大阪市出身、梨花ますみです、と自分言う組長が照れていて実に可愛かった。勿論一番最後は新トップ望海風斗の挨拶だった。
追記:Youtubeで Fritz Wunderlich の歌う "ich kuesse Ihre Hand, Madam" が聞ける。こんな声で歌われたら、たいての世の御婦人方は籠絡されるだろう。
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