愛之助主演で十二役早変わりのこの芝居を初日、一回目に見てきた。三等席 3階2列2番
これは、名前こそ有名だが、結構珍しい芝居で、戦後の関西ではは延二郎時代の延若、ついで南座での我當以来である。後、猿之助、染五郎がやっているだけである。愛之助がこれを手がけるのは、永楽館、明治座で二回、そしてやっと本拠地大阪へ凱旋である。
今回は通し狂言、だからこそ話がわかりやすいし、面白い。全体は歌舞伎でおなじみのお家騒動、家宝の刀の行方が中心となり、だんまり・宙乗り・早変わり・本水使用と見せ所が十分の芝居に仕上がっている。
発端は三上山の百足退治から始まる。近江の国の三上山には百足がいて周囲の住民、旅人に害をなしていた。それを俵藤太が退治した。と言う伝説を芝居にしている。僕はその三上山のすぐ近くに住んでいるので、なじみ深く面白かった。百足は毎年娘を人身御供にしている。その百足は愛之助、まるで「土蜘蛛」である。それを退治する俵藤太も愛之助。百足の足と言うのが何人が出てくるのが面白い。山神が出てきて、俵藤太に刀を与える。これが「龍神丸」
場面変わって琵琶湖の中、鯉の一族は祝宴を上げていた。一族の願いがかない鯉王(寿猿)の息子金鯉が龍になる事になったのである。しかし、退治された百足の血が琵琶湖に流れ込み、この不浄の毒の血の為、一族は倒れ、金鯉は龍になる事がかなわなくなる。その為、鯉の一族は俵藤太を恨む。これはあながち荒唐無稽とも言えない、と言うのは三上山から、昇らなくとも麓から、琵琶湖がよくみえるのだ。ここまでが序幕で、一時間弱。上手く話がまとまっている。
二幕目、この事件から400年後の事、俵藤太の子孫は釣と姓を変えている、と幕前で口上がある。幕が開くと琵琶湖上の船、釣家奥方漣(さざなみ・愛之助)が釣家を追放された浪人(愛之助)と密会している。漣は、亡き夫の家督を実子の為彦に継がせたいが、その妨げとなる先妻の娘小桜姫を殺せと、浪人に命じる。屏風の前で、女と男を愛之助が早変わりで演じるところが面白い。ここは舞踊仕立てになっている。それに、愛之助の女方を久しぶりに見られたのが嬉しい。そこへ、莚(むしろ)を載せた船が下手から出てきて、花道にさしかかると幕が引かれる。その莚の中から、道具屋清兵衛(愛之助)が現れる。
次いで清水寺花見の場。桜が満開の清水寺、関白(愛之助)が家来を連れて花見にやってくる。関白は釣家の家宝龍神丸を狙っている。入れ替わりに釣家息女小桜姫(右近)が家老妻呉竹、腰元、奴(愛之助)を連れて花見に来る。そこへ、信田清晴(愛之助・バカ殿風)が家来と花見に来て、小桜姫を見染め家来を使って一緒に花見をと強引に連れて行こうとする。そこへ滝窓志賀之助・実は鯉の精(愛之助・前髪立ち小姓風)が現れ小桜姫を助ける。小桜姫は志賀之助に一目惚れ。関白の用人と釣家の家来がつながっていて、蔵の合い鍵を作り龍神丸を盗み出す計画を進める。
その後は、「だんまり」。お約束通り、釣家の家宝龍神丸が色々な人の手に渡り、最終的に本物の滝窓志賀之助の手に入る。
ここまで、あらすじを述べてきたのは、これまでの場面が良く描かれているから、次のケレン味満載の場が面白くなると言う事である。番附に出ている上演記録を見てみると、通し狂言になったのは今回の松竹座の前の明治座から。それまでは、ケレンを見せるだけに終わっているように見える。今回大変面白かったのは、ケレンだけではなく、芝居として充実していたからだ。特に何故鯉の性が釣家をたたるのかが明確に描かれていた。それに、歌舞伎でおなじみの、花見の場での見染め、お家の重宝の行方の詮議、だんまりなどがたっぷり描かれている。あまり上演されないのは、ケレンのみを見せる事に重点が置かれていたからではないかとさえ思えてくる。
大詰めは、「鏡山」から始まる。継母漣が小桜姫を折檻する場は、まるで岩藤と尾上。そこへ、漣の息子為彦が出てきて母をいさめる。小桜姫がうたた寝をすると、夢の中に志賀之助が出てくる。目が覚めると、本当に志賀之助が出てきて、小桜姫と再会し、一間でしっぽりと。そこへ、奴(愛之助)が龍神丸と取り戻して来る。家老がさやを払えば、姫が鯉と戯れている影が映る。出てきた二人、変化と見破られた志賀之助は自らが鯉の精と名乗り、釣家を呪い、為彦の目を見えなくしていたとあかす。そこへ、矢が飛んできて鯉の変化に当たる。鯉は水中に消える。その矢を放ったのは本物の滝窓志賀之助で、鯉の精を退治すべく湖畔へと向かう。
三階から見ていると、大詰めに場の前に最前列・二列目の観客にはカッパが配られている。最後の場は、舞台に雨を降らせた上、水を吐く鯉の精との立ち回り。
役者では、愛之助は十二役、ご苦労様である。後、吉弥の呉竹、男女蔵の篠村次郎夫婦が手堅い。ここでこの二人の芝居がしっかりしているから、芝居が面白くなっている。小桜姫の右近、為彦の萬太郎は頑張っていて好感が持てる。とても楽しい芝居だった。
しかし、最後に傷がついた。それは出演者ではなく観客。最後、愛之助が六法で引っ込む所、手拍子が起きたのだ。我が耳を疑ったが紛れもない事実である。たぶん、半可通が手拍子を始め、なにも知らない人がつられたのだろう。ここは松竹座、宝塚大劇場ではない。松竹座の客層も落ちたのか。
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