中野京子 著 光文社新書
中野京子と言えば「怖い絵」、この本は、それとはひと味違って、イギリス王家の肖像画を元にどのような人物だったのかを解説する、というもの。
この本で長い事疑問に思っていたことが解決した。それは、ヘンリー8世がなぜ次ぎ次ぎと結婚したかと言う事だ。正室が跡取り息子を産んでくれなければ、妾に生んでもらえば良いではないか。たとえ正室が男の子を産んでくれたとしても、乳幼児死亡率の高い当時、安心はできない。「保険」として、側室にも男の子を産ませる、と言う事は、日本ではよく行われていた。例えば、徳川将軍家で、正室の子が将軍になったのは家光ただ一人である。
イギリスでは、正室の子でないと皇位継承権がないのだ。妾の子には相続権がない。そこが日本と違うところ。それに養子・婿養子を迎えると言う風習もない。だから、正室が跡取りを生んでくれない、と言ってヘンリー8世は離婚を企てたり、不貞をでっちあげて妻を処刑する、などと言う過激な手段に出たのだ。
また、ハノーファー朝の話が面白かった。ハノーファー選帝侯ゲオルク(Georg)が、イギリスに迎えられて王となりジョージ(George)一世となる。ジョージ1世は、ずっとドイツにいてイギリスにはめったに来なかった、と言う事は知っていたが、理由がわからなかった。ハノーファーは、いうなら都市国家、イギリスとは比べものにならないほど小さい国だ。
当時、イギリスは清教徒革命とか名誉革命で政情が安定していなかった。喜んで王様に収まったとたん、殺されてはつまらない、そう考えたのだろう。それはイギリス国民にとっても願ったり叶ったりで、王様にはいて貰わなくては困るが、政治に口をだして貰っても困る。君臨すれども統治せず、と言うスタイルはこのジョージ一世が基礎を作ったと言われている。
それに、このハノーファー王家は、跡継ぎの息子が嫌い、と言う不思議な「伝統」があるのだ。普通は自分の子が可愛いと思うのだが。ジョージ一世に至っては「嫌われ者がやってきた」とイギリス国民に思われた。
また、ドイツとのつながりが濃いのがこの王家。ビクトリア女王は夫のアルバートとドイツ語で話していたとの事。クリスマスツリーは元々ドイツの習慣で、アルバートがドイツから持ってきたものだった。
そのドイツ臭を徹底的に消していったのが、ジョージ5世、今のエリザベス2世女王のおじいさんである。なんせ、ドイツ帝国と戦争しているのだから。その息子が、エドワード8世。この人の話は宝塚歌劇になっている。シンプソン夫人と言う、離婚歴のあるアメリカ女と結婚してこの女を王妃にしようと思ったが、出来なかったので(あたりまえだ!)、王位を放り出した。そのおかげで、王位を継いで苦労したのが、ジョージ6世、現エリザベス2世の父である。エリザベス2世と母のエリザベス皇太后は決してシンプソン夫人を許さなかったとか。さもありなん。
この本、とても面白かった。テレビ・映画・舞台でイギリス王家が取り上げられる事は多い。基礎的な知識としておさえておくと、一段と興味深く見ていられる。
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